「なあ、あんたちょっと・・・・ご機嫌ナナメ?」

連れてこられた静かな場所に一本だけ生えていた、幹のねじれた太い樹の下。
地面近くまで大きく張り出した枝に繁った肉厚の葉が陽光を遮り、ティーダの言葉どおり、
確かに涼しく快適だった。
・・・・この「場所」そのものは、確かに快適だったのだが。

甘かった、俺が馬鹿だった。

「だから俺は疲れているんだと何度言ったら」
「だってオレだってずっと我慢しててッ」

ティーダは仰向けに寝ころんだ俺の腹の上にどっかりと座り込んで、先程から不届きな
おねだり続行中だ。
もっと小さな頃ならいざ知らず、今となってはそれなりに身体も重たく、肘をうまく
地面に縫い止める力の入れ方やコツまでも、いつの間にやら心得ているのがやっかいだ。

ただし、こいつがその技術を習得したのは、自分より力も上背もある相手を必死で
組み敷き続けた熱意と経験のたまもので、ある意味俺自身のせいなのだが。


「ずっとだと? いつ我慢したんだお前が!?」
「オレは若いんだからさ、一日三回じゃ全然足りないっての!」
「一日三回、上等だろう。お前が日々無理強いしなければいくら俺だってこうまで消耗は」
「無理じゃないよ! だってオレあんたのことこんなに好きなのに!!」
「俺が無理なんだと言ってる!」
「それってオレのことキライってことかよ?!」
「どうしてそうなるんだ、俺が言いたいのは」
「じゃあ好き?!」



ぶち。



「俺はもう三十路半ばでお前に比べてよれよれのズタボロのおっさんで
 日々の戦闘とお前達のお守りで手一杯で休めるときに休んでおかないと
 あとに響いて大変なんだ! 
 少しは妥協とかいたわりとか労いの気持ちとか持てないのかお前は!?」



疲れと苛立ちが頂点に達し、常にない大声と勢いで爆発してしまった。
しゅんとうなだれてしまったティーダの表情は、長い前髪に隠れて見えない。
乗り上げた姿勢は変わらないまま、両腕を押さえつけていた手からは嘘のように力が
抜けている。


・・・・しまった、しくじった。


ティーダが慣れない環境と人々の中で、懸命に努力し明るくけなげに頑張っていて、
飾らずストレートに我が儘を言えるのも、遠慮なく甘えられるのも俺にだけだと
わかっていたはずなのに。まったく我ながら、大人げない。

疲れている、確かにそうだが、俺にだってこいつをいたわったり労ったりする義務がある。
本人の意図しない旅立ちを強要した者の誠意として。

保護者の責任として。年長者の分別として。

それから。

恋慕の情を受け入れてしまった己の正直な・・・・・・・気持ちとしても。


「・・・・・ティーダ」
「・・・・・・」

「ティーダ」
「・・・・・・」

「とりあえず・・・・・・・せめて一日おきなら・・・・どうだ」


不本意ながら精一杯の妥協案をひっさげて、自由になった両手で俯いた顔を上げさせ、
淋しさと不満の入り交じったわかりやすい表情を見ながら、ぐりぐり頭を撫でてやる。

「お前だって、疲れてイライラしたそっけない俺より、余力があってそこそこ機嫌のいい
俺の方が少しは・・・・いいだろう?」


もしかしたら拾ってもらえるのかもしれない、と思い始めた捨て犬(しかも小犬だ)のような、
縋るような窺うような目つきをされると、全てにおいて自分が悪かったような、何を置いても
言うことを聞いてやらねばならないような気にさせられて(まったく理不尽この上ない)、
昔から苦手なのだが。


「・・・・・・・・オレのこと、好き、だよね・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「アーロン・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・この期に及んで、まだそんなことを言ってるのか」


俺にはな、どうでもいいと思っている男の機嫌を取るような酔狂な趣味はないんだ。
そしていい加減しつこいようだが、本当に、本当に、今は疲れていてだな。

「ごめん」


ついさっきまでとはうって変わった静かな声音だ。
溜息をついた俺の上に、ティーダはそのままゆっくりと寝そべってきた。
ただ大人しく、頬を胸につけ、甘えるように。

「あのさ、なんかこっち来てからずっと、なかなかふたりっきりになる時間、
持てなくなっちゃったから・・・・・。あんた、みんなの前だとそっけないし・・・・・・・」

当たり前だ。
お前みたいな10代の小僧っ子じゃあるまいし、恥も外聞もなく人前でそうそうベタベタ
出来るわけないだろう----いや、年はこの際関係ないか。


「だからオレ・・・・ちょっと飢えてたのかもな、あんたに」


本当に、親子ほども年の離れたこんな強面のおっさん相手に、よく何年も飽きずくじけず
口説き続られるものだと感心する。
ここだけの話だが、こんなふうにあけすけに気持ちをぶつけられるのも、あながち
不快なものでもな・・・・・・。

いや、男らしくないな、この言い方は。

そう、ぶっちゃけ(これはティーダに教わった。正直なところ、とか、率直に言えば、
とかいう意味らしい)悪い気はしないのだ。
それ系の話題においては野暮で鈍感を自覚する、こんな俺でも。




「寝てていいよ」

言いたいことを言って一応気が済んだのか、どうやらやっとティーダは俺を、休ませて
くれる気になったらしい。いまだ上に乗ったままではあるけれど。

重たいと邪険にするのももう億劫で、そのまま諦めて目を閉じる。


「オレがここで見張っててあげるから、安心して、休んで」


まったく、微笑ましい生意気を言うものだ。
お前など、まだまだあてになるものか。
俺は不穏な気配や殺気を感じれば絶対に目が覚めるし、多少くたびれてきてはいるが
お前に守ってもらわねばならないほど弱くはない、そうは思っても。

年を取ると、子供にも多少花を持たせた方が扱いやすくていい、ということも経験上
わかってくる。
それから、今さっき頭から怒鳴りつけたことへの軽い詫びの気持ちもあって。

「頼んだぞ」と珍しくもあっさり頼ったふりをしてみると、
「オッケー! 任しとくッス!!」

ティーダはすぐにいつもの調子に戻って、嬉しそうにそう応えた。











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「何度言わせる! 俺は、今死ぬほど疲れていて!!」
「だから寝てていいよって! マグロでいいからって言ってんじゃん!!」
「一日おきにしろと言っただろう!?」
「だ〜から今日したら、明日は我慢すればいいんだろ!!」





近頃とみに自分が年を取ったと感じ、もう若くないことを再認識する機会が非常に多い。
体力も、思考回路も、何かにつけ若者とのギャップを感じることがよくある。

しかしそれらの差違を容認したり諦めたりしていては、この旅を完遂するまで俺の身が保たないだろう。
これだけはなるべくならやりたくなかったが、仕方がない。

四つん這いで俺に覆い被さっているティーダの、ハーフパンツ前面の目立つ隆起をぐっと握って
特殊アビリティ「おどす」発動。



「動くな。潰すぞ」







END





■当サイト初のキリ番(カウント10)ゲッター・霞渚さまから頂戴したリクエスト
『喧嘩するほど仲がいい』でございます。ソレなんかチガウよ、と思われも、
ございますったらございますのです!! 2月初旬からお待たせしてすみません〜;
さんざん待たせてこの有様ですが、素敵リク、どうもありがとうございました!!

■相変わらずうちの渋ってば、骨の髄まで受が身につきすぎてて困りもの・・・(泣)
しかもなんだかんだ言いつつ、堂々としたラブラブっぷりです! ぐはあッ;;
いいのか!? 本当にこれでいいのでしょうか渚さま、&ティアロメイツの皆様??!

■一応絵描きのはしくれとして、後日挿し絵らしきものもくっつける予定です。
絵がついたらついたで余計アホラブ度が上がるだけのような気もしますが、
よろしかったら忘れた頃にでもまた見に来てやって下さいませ〜。(sakana)

■(追記:5/25)挿し絵、くっつけました。やっぱり思った通りだわ(^_^;)


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