「悩めるお年頃」






あまり考えたくはないが、近頃とみに自分が年を取ったと感じることが
多くなったような気がする。
生きていれば・・・・いや、活動年齢からすれば自分も既に三十五だ。
しかも、自分で言うのも憚られるが、これまで平穏な人生だったとは言い難い。
今さら自分がもう若くないことを再認識するのもばかばかしい、それなりに
ほころびの出る年齢になっているわけだが。

今俺は、我ながら珍しく両袖を抜いて、剣も放りだし、だらしなく地面に座り込んでいる。
続いてブレストアーマーもブーツも、重たくて蒸れるものは全て脱ぎ去ってしまいたい
衝動に駆られるが、何とか思うだけに留める。
ただ疲れを、隠せない。


ケアルやポーションは戦闘中のダメージには効くが、結局はその場限りの応急処置だ。
疲弊した身体は勿論、緊張続きで摩耗した精神面にも、根本的な回復にはやはり休養が
必要らしい。

鍛え方が足りないだとか、情けないだとか、考えてしまうと余計疲れるので、あえて
ぼけるに徹することにする。

急ぐ旅だが先は長い。たまにはこういう時があってもいいだろう。
10年前は、こんな簡単なことすらわからなかった。

若かった自分はただがむしゃらに、一本気に、前に進むことばかり考えていたような
気がする。
疲れを自覚すること、人に悟られることは、崇高な旅の目的や旅の主への冒涜にも
思えたものだが、今となっては自分の至らなさに身が縮むようだ。

「私がね、疲れたんだよ」

旅の途中途中で、主はさらりとよくそう口にしたものだ。
あの頃は、体を張って戦い続けるガードの俺に気を遣って、無理にでも休ませようとして
くれているのだとばかり思っていたのに。

10年経ってようやくわかった。

ああ、当時今の俺と同年代のあなたは。
本当〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜に!心底お疲れだったのですね。
まったくもって、大変申し訳ありませんでした・・・・・・!!






しみじみ(?)考え事をしていると、強い睡魔の波がやってきた。
人は疲れすぎるとかえって眠れなくなるものだから、この波には素直に乗るべきだ。

このまま軽く・・・・

一眠りでもすれば・・・・

少しは・・・・・・・・・・・・・・・・・


「な〜にたそがれてるッスか」

背中にどしっと、遠慮のない勢いと重量。
そのままがっちりと首に巻きついてくる、しっかり筋肉のついた小麦色の腕。
そして子供は体温が高い。

「・・・・重いぞ」
「へへv」
「・・・・・・苦しいんだが」
「そう?」
「・・・・・・・・暑い」
「うん、今日すっごい日差しっスね」

会話がかみ合っていない。それより何より、

「自分で言うのも癪だがな、俺はもう若くないんだ。お前と一緒にするな」

というわけで、放っておいてくれ。どけ、離れろ、休ませろ。

「オレたち足して二で割ればちょうどいいようになってんの。
それって結構シャレた釣り合いじゃない?」

どこがどう洒落ているのか?

というより、そもそもそれは”釣り合っている”というものなのか??
しかも俺の発言に対する受け答えとしては、この場合間違っているんじゃないか???

体力面だけでなく、若者流の柔軟な発想にも、どうも最近うまくついていけない。
ああ、これが世で言うところの、じぇねれーしょん・ぎゃっぷ、とか言うやつだろうか。


まあ確かに俺は、あまり頭が柔らかい方ではないと自分でも思う。
柔軟な発想とかいうそれ以前に、基本的な価値観とか常識とか礼節とか意義とか信念とか
生活習慣とか、フォークは右なのにスプーンは左、などといったくだらない癖まで、
どうにも譲れないものが多い。

まったく君ときたら困った頑固さんだね、だの、
おめえそのデコで魔物粉砕できんじゃねえの、だの、
どーしていっつもそうなんだよあんたってばまったく、だの、
ことあるごとにさんざんに言われ続けてきたけれども。

俺が石頭で融通が利かなくてこだわりが強くて誰かに迷惑をかけたのか?
お前らこそ、少しは個人の個性を重んじるということを覚えろ。
大体何故俺だけが、よってたかってやり玉に挙げられなくてはならんのだ。
人が物事にこだわるには、それなりの理由とか事情というものもあってだな。
そもそも・・・・----


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・いかん、何だか余計な方向へ腹が立ってきた。
愚痴っぽくなるのも、いつまでも過去にこだわるのも、やはり年経た証拠だろうか。
不毛な上に気分が悪くなるから、この辺は何とか改めるように努力しなくては。


・・・・・・・・・・・・・・疲れているんだ、とにかく。

「ね、あっち」

そして始まる唐突な会話。

「あっちがどうした」
「行こうよ」
「だから、今、俺は、休憩中、なんだが」

多少いやみに響くくらいに言ってやる。
それにもめげず(通じていないのか)、背中越しには変わらずぺったり体温と湿気と鼓動。
首っ玉に巻き付く腕の力は一向にゆるむ気配はない上に、そのままどこかへ連れ出そうと
揺すってくるので始末が悪い。

そもそも俺が今、こんなにへばっているのはな。

この比較的安全な野営地に着くまでの長い道々の先頭で、誰ひとり「かたい」属性の武器を
持っていない完全初期装備&ど素人混じりのお子さまパーティを護り、導き、ひたすら斬り続け、
走り続けたことがひとつ。
その上で、朝な夕なと暇さえあればお前は------

「だからあ、あっちにイイカンジの木陰、あったから行こうって。ここより絶対涼しいッスよ」

最初からそう言わんか。

少々表現力不足なのは、もともと言葉足らずな俺が育てた以上仕方がない。
その代わり、いつでも自然に他人を気遣う生来の優しさが、この子にはある。

ほんの僅かでも長く、少しでも良い環境で身体を休めたかった俺はようよう重い腰を上げ、
ティーダの後について行った。       

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